「エンゲージメント」に関するアンケート
近年、生産人口の減少や人材の流動化、消費者ニーズの多様化などにより、企業を取り巻く環境はますます厳しさを増しています。こうした状況の中、既存の従業員を最大限に活用することが大きな課題となっています。そこで注目されている指標の一つが「エンゲージメント」です。組織人事の分野におけるエンゲージメントは、従業員と仕事の強い結びつきを示す「ワークエンゲージメント」と、従業員と会社の強い結びつきを示す「組織エンゲージメント」の二つに大別されます。
インターワイヤード株式会社では、エンゲージメントに関する市場調査を実施し、業種別のワークエンゲージメントおよび組織エンゲージメントの傾向、会社の施策、マネジメント、職務設計などがエンゲージメントに与える影響について分析しました。
調査は2025年9月12日から9月18日にかけて実施し、全国の労働者1,189人から回答を得ています。
- ワークエンゲージメント、組織エンゲージメントともに、建設業が最も高い。
- 組織エンゲージメントは金融保険業でも高い水準となった。
- ワークエンゲージメントは卸売・小売業、組織エンゲージメントは製造業で最も低い。
- 重回帰分析によると、ワークエンゲージメントおよび組織エンゲージメントに影響を与える要素は、業種によって大きな違いがある。会社別に分析するとさらなる違いが生じる。
- エンゲージメント調査を実施し、自社ならではのエンゲージメント向上策を見出すことが重要。
■エンゲージメントスコア
<スコアの算出方法>
ワークエンゲージメントは仕事への活力、熱意、没頭から構成される概念で、下記3設問の平均点を下記配点表をもとにワークエンゲージメントスコアとして算出した。
組織エンゲージメントは会社との一体感や貢献意欲を表す概念で、下記3設問の平均点を下記配点表をもとに組織エンゲージメントスコアとして算出した。
■ワークエンゲージメントスコア
非常に高いスコアとなったのが「建設業」。『仕事における活力』、『仕事のやりがい・誇り』、『仕事への没頭』ともに、非常に高い水準となった。成果物が目に見える形で実感できる、仲間との協力意識が強いといった仕事の特性が影響している可能性がある。他方、最も低くなったのは「卸売・小売業」で、中でも『仕事への没頭』が低くなった。顧客への臨機応変の対応が求められる業種であり、没頭感に欠ける面があるのかも知れない。「情報通信業・IT関連」は、『仕事への没頭』が高く『仕事への活力』が低い結果となった。高度な専門性と高い集中力が求められる一方、目に見える物理的な成果が少なく、即時的な満足感や活力回復に繋がりにくいという業界特性が関係しているのかも知れない。
■組織エンゲージメントスコア
「建設業」は組織エンゲージメントも高く、とりわけ『自社に対するブランド意識』が非常に高い結果となった。これは、地域社会への目に見える貢献を実感しやすい業種であることが大きく影響していると考えられる。また、「金融・保険業」も平均的に高い結果を示している。高度な知識やスキルが求められ、自己成長を実感しやすいため、組織への愛着や誇りにつながっていると考えられる。一方で、「製造業」は『自社に対するブランド意識』が非常に低い結果となった。製造ラインなどで顧客との接点が少なく、顧客からの評価を実感しづらい点が影響している可能性がある。
<重回帰分析とは>
重回帰分析とは、設問項目を目的変数と説明変数に区分し、項目間の因果関係を導き出す分析手法である。本調査では、ワークエンゲージメントスコアおよび組織エンゲージメントスコアを目的変数とし、会社の施策やマネジメント、組織風土、仕事のあり方に関する設問を説明変数に設定した。これにより、会社の施策等がワークエンゲージメントスコアおよび組織エンゲージメントスコアに与える影響度を業種別に分析した。
■建設業
ワークエンゲージメントスコアへの影響度が高い項目は、『会社の方向性や経営陣の言動には一貫性がある』と『他部門との協働や情報共有がスムーズである』。チームでの連携が重要な建設業においては、経営の安定感と部門間連携の良さが、従業員の仕事への没頭や活力を高めていると考えられる。
組織エンゲージメントへの影響度では、『育児や介護などの両立支援に手厚い会社である』が上位に挙げられた。建設業では近年、女性の活躍が進んでおり、こうした両立支援の充実が組織への帰属意識を高める重要な課題となっているようだ。
※会社の施策やマネジメント、仕事そのものに関する全56設問のうち、エンゲージメントに対する影響度が高い上位の項目のみをプロットしています。
■製造業
『会社において自分のキャリアを描けている』ことと『自分の知識やスキルを活かせる仕事である』ことが、ワークエンゲージメントおよび組織エンゲージメントに大きな影響を与えている。将来にわたって自身のスキルを活かし続けられる環境が、エンゲージメント向上の最大の要素となっているようだ。また、組織エンゲージメントにおいては、『会社の戦略や方針を理解できている』ことや『会社の方向性や経営陣の言動に一貫性がある』こと、『部門目標が会社の戦略や方針に基づいている』ことも高い影響度を示している。製造業では品質の維持が重要であり、会社から自部門、そして自身に至るまで一貫して姿勢がブレないことが、安心して働ける環境をつくる上で重要な要素となっているようだ。
■情報通信業・IT関連
業種特性としては、『業績に結び付かなくても、経営理念に沿った判断や行動が高く評価される』がワークエンゲージメント向上の大きな要素となっていること。長期にわたるプロジェクトが多いからこそ、中長期的な視点での評価が重要となる。また、『自分の仕事について裁量が十分に与えられている』ことや『職場のコミュニケーションがうまくいっている』ことも、ワークエンゲージメントに大きな影響を与えている。自主性とチームワークがともに求められる業種ならではの出方といえる。組織エンゲージメントに対する影響度を見ると、『自分が職場から必要とされていると感じる』ことや『社会に貢献できる仕事である』と実感することが高いことが特徴的である。これは、自らの存在意義が認められている組織に対して、従業員の愛着や帰属意識が高まることを示している。
■卸売・小売業
『性別や年代などによってレッテルを貼られる風土はない』ことは、ワークエンゲージメントや組織エンゲージメントを高める重要な要素となっている。性別や年代を問わず誰もが活躍できる業種だからこそ、差別や偏見のない環境づくりが不可欠といえる。また、『部門目標は会社の戦略や方針に基づいている』『上司は的確な判断・指示ができている』『仕事に対する期待や目標が明確に設定されている』も、ワークエンゲージメントに強い影響を及ぼしている。自身の仕事が具体的かつ明確に定められていることで、従業員のやる気やモチベーションが向上することが示唆される。一方で、組織エンゲージメントに特に影響を与えているのは、『会社の戦略や方針を理解できている』と『従業員の意見が経営に反映されていると感じる』。現場の実態を踏まえた戦略や方針が組織全体で共有されることで、組織への愛着やコミットメントが高まり、よりエンゲージメントが高まるようだ。
■金融保険業
ワークエンゲージメントへの影響度は、『自分の知識やスキルを活かせる仕事である』が最も高く、『個々の知識・スキルや特性に合わせて適材適所に人員が配置されている』も上位に挙げられている。高度な専門知識やスキルが求められる金融保険業種においては、従業員の知識やスキルを会社が正確に把握し、それを最大限に活用できる環境づくりが非常に重要である。一方、組織エンゲージメントへの影響度では、『部門目標が会社の戦略や方針に基づいている』が突出しており、『他部門との協働や情報共有がスムーズである』も上位に位置している。各部門の方向性にブレがなく、かつ部門間の連携が円滑であることは、多くの部門が協力し合う金融保険業において、迅速な意思決定や問題解決を促進し、顧客サービスの質向上に直結する。
■サービス業
影響度が最も高い項目は、ワークエンゲージメントにおいては『部門目標が会社の戦略や方針に基づいている』、組織エンゲージメントにおいては『会社の戦略や方針を理解できている』となっている。また、両者ともに『会社の方向性や経営陣の言動には一貫性があること』が上位項目に挙げられている。会社としてブレない姿勢は、昨今社会問題となっているカスタマーハラスメント対策においても重要な要素である。安心して働ける環境づくりが、従業員のやる気や貢献意欲を高めるうえで欠かせない。さらに、『労働時間の管理が適切に行われていると感じている』も組織エンゲージメントへの影響度が高い項目として挙げられる。長時間労働が多い業種であるため、労働時間の適切な管理は帰属意識を高める重要なポイントといえる。
■医療・福祉業
『会社の戦略や方針を理解できている』と『会社において、自らのキャリアを描けている』は、ワークエンゲージメントや組織エンゲージメントを高める重要な要素となっている。組織エンゲージメントにおいては、『従業員の意見が経営に活かされていると感じる』も影響度が最も高い項目の一つ。ストレスが高い業種であるため、現場の実態を踏まえた戦略や方針が組織全体で共有されていることは、安心してキャリアを積むうえで重要な要素となる。また、『自分は職場から必要とされていると感じる』『会社都合を優先せず、良識や社会通念を重視する会社である』も、ワークエンゲージメントへの影響度が高い項目となっている。強い倫理観や使命感が求められる業種ならではの特徴といえる。
<重回帰分析まとめ>
<重回帰分析まとめ>
業種別に重回帰分析を行った結果、ワークエンゲージメントや組織エンゲージメントを高める要素は業種によって異なることが明らかになりました。これは、仕事の進め方、求められるスキルや役割、労働環境、ストレス要因やリスク、キャリアパスや成長機会の違いなどが影響しているためと考えられます。
また、今回の調査は市場調査であるが、会社別に分析すると、その会社のマネジメントスタイルや企業文化、企業風土の違いが色濃く反映され、エンゲージメント向上の課題はまさに十人十色となります。すなわち、「会社の方向性への共感」や「経営陣と従業員のコミュニケーションの強化」、「組織の心理的安全性の向上」といった一般論が、自社のエンゲージメント向上に必ずしも効果的とは限りません。したがって、エンゲージメント調査を実施し、そこで得られた自社の実態を踏まえて、独自のエンゲージメント向上策を策定・実践することが重要です。
なお、重回帰分析はあくまでも調査結果に基づく分析手法であり、そこから導き出された施策がすべての従業員に対して一様に有効であるとは限りません。また、現時点での重点施策が将来にわたっても有効であり続ける保証はありません。従業員のエンゲージメントを持続的に向上させるためには、分析で得られた重点施策を出発点として、実行と検証を繰り返しながら、組織の変化や従業員のニーズに合わせて柔軟に改善を重ねていく粘り強い取り組みが不可欠です。